睡眠の質向上を目指す「リカバリーウェア」市場拡大の背景と課題
近年、日本国内においては、睡眠の質や身体の回復に対する意識の高まりを背景に、睡眠時の生体回復を促進する「リカバリーウェア」と呼ばれる健康衣料が急速に普及しつつある。実際、リカバリーウェアは2025年の注目キーワードの一つに選出されており、その関心の高さがうかがえる。市場規模も2024年には約189億円であったのに対し、2030年には約1700億円にまで拡大する見通しであり、わずか数年で約9倍の成長が予測されている(日本能率協会総合研究所調べ)。このような市場拡大を受け、イオンやニトリ、ワークマンといった大手小売業者も相次いで参入している。
リカバリーウェアとは、日常生活や運動によって生じる筋肉疲労や凝り、軽度の痛みなどの回復を補助することを目的とした衣類である。本来はアスリートの体力回復を支援する高機能ウェアとして開発された経緯があるが、現在では一般消費者にも広く受け入れられるようになった。その主な仕組みとしては、人体から放射される遠赤外線を生地が反射することで血行を促進し、疲労の軽減を図る点が挙げられる。そのため、多くの製品には天然鉱石由来のセラミック粒子が練り込まれている。また、適度な着圧による静脈血流のサポートや、寝返りしやすい設計、睡眠時の体温バランス維持なども特徴として挙げられる。
2022年以降、リカバリーウェアは日本国内で一般医療機器に分類され、一部の効果についてメーカーが説明できるようになった。
市場拡大の契機となったのは、TENTIAL社が開発した「BAKUNE」であり、著名人の広告起用も相まって「機能性パジャマ」として高い人気を博している。価格は長袖上下セットで約27,000円と高額であるものの、2024年12月までに100万着以上が販売された。これを受け、ワークマンは2025年9月に「Mediheal」シリーズを、イオンは2025年12月に「Topvalu EX Cellient」インナーをそれぞれ発売し、手頃な価格設定や中価格帯の商品展開によって市場の裾野を広げている。特にワークマンの製品は、発売からわずか1週間で40万着が完売し、16日間で211万着を売り上げるなど、消費者の関心の高さを裏付けている。
一方で、日本社会における睡眠問題は依然として深刻である。
厚生労働省の調査によれば、推奨される成人の睡眠時間は6時間以上とされているにもかかわらず、実際には男性の36.2%、女性の38.9%が睡眠不足の状態に陥っている。このような現状を踏まえ、睡眠の質向上を図る製品としてリカバリーウェアへの期待が高まっていると言える。
リカバリーウェアの効果については、整形外科医の前田俊久医師によれば、筋肉のこわばりやむくみの緩和、睡眠中の体温安定化、軽度な疲労回復の補助が挙げられるものの、怪我や炎症の治療、慢性的な痛みの根本的な改善には至らないとされている。
あくまで補助的な役割にとどまるため、過度な期待は禁物である。また、動脈硬化や重度のむくみ、静脈疾患などの血行障害を有する人、皮膚が敏感な人、心臓や腎臓に疾患のある人、妊娠中の女性などは、着圧や体温上昇が健康状態を悪化させる可能性があるため、使用に際しては十分な注意が求められる。
製品選択の際には、着圧の強さが日常使用に適しているか、通気性や吸湿性、体に合ったサイズであるかといった点を確認することが重要である。
さらに、製品の目的を正しく理解し、何よりも着心地の良さを重視すべきだという指摘もなされている。リカバリーウェアは「我慢して着用するもの」ではなく、快適な休息を支えるためのアイテムであるべきだ。
健康志向の高まりと睡眠改善への関心が強まる中、今後も日本国内におけるリカバリーウェア市場は一層の拡大が予想される。